猫の帝王切開術について
猫のお産を見たことがあるでしょうか。
猫は繁殖力の強い生きものであり、短い妊娠期間で複数の子猫を産みます。
出産は新しい命が生まれる素晴らしい瞬間である反面、初めて立ち会う人はどうしたらいいか戸惑ってしまうものです。
場合によっては難産してなかなか子猫が出て来ず、帝王切開が必要になることもあります。
今回は猫の妊娠出産と帝王切開術について実際の症例を交えて解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛猫が妊娠した際の参考にしていただけますと幸いです。

猫の妊娠期間
猫の妊娠期間は平均して63〜67日とされており、人間と比べればとても短い妊娠期間で出産します。
また猫は発情期がなく、交尾が成立して初めて排卵するため、基本的には年中妊娠することが可能です。
猫の妊娠の診断
猫の妊娠の診断方法は、超音波検査やレントゲン検査によって胎子を確認することです。
猫の場合、妊娠15日以降は超音波検査によって胎子を確認でき、妊娠35日以降はレントゲン検査によって確認ができます。
また、胎子の心拍は超音波検査で確認され、胎子の数はレントゲン検査で確認されます。
猫の分娩
猫の分娩は3つの段階に分かれて進んでいきます。
それぞれについて解説していきます。
正常な分娩と異常な分娩の判断の参考にしてください。
ステージ1
ステージ1は子宮の出口が開き始める段階で、最長36時間続きます。
猫はそわそわして巣作り行動を始め、呼吸が速くなることもあります。
事前に段ボールなどで隠れることのできる場所を作り、巣作りに利用できるようにタオルなどをたくさん敷いておくと良いでしょう。
なるべくこの時の猫には手を出さず、リラックスできる環境でそっとしておくことが大事です。
このステージからなかなか分娩が始まらないときは動物病院へ連絡しましょう。
ステージ2
ステージ2は子宮の出口が開いて分娩が起きる段階で、最長24時間続きます。
子宮が強く収縮してまず破水が起き、猫が陰部をなめ始めます。
陣痛が来て母体がいきみ始め、30〜60分間隔で一匹ずつ分娩するのが平均的な分娩間隔です。
この段階で45分以上いきんでいるが、なかなか胎子が出て来ないという場合はすぐに動物病院に連絡しましょう。
超音波検査で胎子の生存確認を行い、状況によっては帝王切開術が適応になります。
ステージ3
ステージ3は胎盤が排出される段階で、数時間から数日かかる場合もあります。
胎子と一緒に胎盤が出てくることもあれば、最後にまとめて出てくることもあります。
胎盤は母親が食べてしまうこともあり、その場合は胎盤を確認することが出来ません。

猫の帝王切開術の適応
猫の帝王切開術は子宮を切開して直接胎子を取り上げる手術であり、その適応には以下の3つの場合が挙げられます。
- 分娩が始まらない場合
- 難産の場合
- 事前に自然分娩が難しいとわかっている場合
それぞれについて解説していきます。
分娩が始まらない場合
分娩が始まらない場合も帝王切開術の適応です。
巣作りも終えて落ち着いてから丸一日経っても母体がいきまないときは、子宮無力症である場合があります。
陣痛促進剤の注射で子宮の収縮が促されることもありますが、あまり長い時間分娩が進まないときは帝王切開術に踏み切ります。
難産の場合
難産の場合は、帝王切開術の適応になることがあります。
特に45分以上いきんでも胎子が出て来ない場合はすぐに動物病院に連絡しましょう。
超音波検査によって胎子の心拍が正常であり、母体の状態が良ければ一度オキシトシンの投与を行って反応を見ることもあります。
しかし胎子がすでに死んでいたり心拍が遅い場合や、すでに長時間いきんでいる場合はすぐに帝王切開術が必要です。
事前に自然分娩が難しいとわかっている場合
事前に自然分娩が難しいと判断されるのは、胎児が骨盤腔を通れない場合です。
胎児の頭が骨盤腔より大きい場合は自然分娩は難しく、帝王切開術の適応になります。
特に難産の多い品種では妊娠の直前にレントゲン検査によって、骨盤腔の幅と胎児の頭の幅を測定してもらうことは大切です。
難産の多い品種としては、ブリティッシュ・ショートヘアー、ラグドールやアビシニアンなどが挙げられます。
猫の帝王切開術の症例
猫の帝王切開術を実施した実際の症例をご紹介します。
このお母さん猫は来院する24時間前に自宅で2匹出産しましたが、そのうち1匹は死産だったそうです。
2匹分娩して以降分娩はなく、陣痛もないとのことでした。
すぐに来院して頂き超音波検査をすると、心拍のある胎子を確認できました。
分娩が長時間にわたると胎子を助けられる確率は下がるため、当日すぐに帝王切開術を行いました。
お腹を開けてみると胎子は2匹子宮に残っていて、2匹とも助け出すことが出来ました。
お母さん猫も頑張ってくれて、無事に麻酔から覚めてくれました。
手術後しばらくして抜糸に来てもらいましたが、お母さん猫も子猫たちも元気でした。
飼い主様は今後このお母さん猫の妊娠を望んでおられませんでしたので、帝王切開術の際には子猫を取り出した後に卵巣子宮を摘出しています。
まとめ
猫は自然分娩で出産することがほとんどですが、まれに難産になることがあります。
自宅で猫が出産するときには、正常な分娩と異常な分娩の違いを知っておくことが大切です。
異常な分娩かもしれない、と思ったらすぐに動物病院に連絡しましょう。
場合によってはすぐに帝王切開術をすることで、母子ともに助けることができます。
当院では猫の帝王切開術にも対応しております。
愛猫の妊娠・出産についてもお気軽にご相談ください。
執筆担当:獣医師 渦巻浩輔