猫の仮性半陰陽について

「仮性半陰陽」という疾患をご存知でしょうか。
仮性半陰陽とは比較的まれな疾患で、性腺(精巣や卵巣)と外部生殖器の性別が一致しない疾患です。
仮性半陰陽は外見では気づかれにくいですが、早期に発見し、適切な対処をする必要があります。
今回の記事では猫の仮性半陰陽について実際の症例を含めてご紹介します。
動物病院で「この猫は仮性半陰陽かも?」と言われた方はぜひ最後までお読みいただき、仮性半陰陽について詳しく学んでいきましょう。

猫の半陰陽とは

半陰陽とはオスとメスの両方の性別の特徴を持って生まれてくる状態のことです。
半陰陽の猫では性成熟の時期を過ぎても発情兆候が認められず、気づかれることが多いです。
また、避妊、去勢手術時に生殖器の異常が発見されることもあります。
半陰陽は特徴によって真性半陰陽と仮性半陰陽に分けられます。

真性半陰陽

真性半陰陽は1個体の中で精巣と卵巣の両方の性腺、またはその中間の性腺を持つ状態です。
真性半陰陽の猫は外部生殖器の個体差が大きく、それぞれの猫によって特徴が異なります。

仮性半陰陽

仮性半陰陽とは性腺と外部生殖器が一致しない状態です。
雄性仮性半陰陽の猫は精巣を持ちますが、メスに近い外部生殖器を持ちます。
一方で雌性仮性半陰陽の猫は卵巣を持ちますが、オスに近い外部生殖器を持ちます。

仮性半陰陽の見た目でわかる特徴

仮性半陰陽の猫では外部生殖器が特徴的であることが多いです。
仮性半陰陽でよく見られる特徴について見ていきましょう。
雄性仮性半陰陽の場合は以下のものが挙げられます。

  • 陰嚢の未発達
  • 皮下ないし、腹腔内に精巣がある
  • 陰茎がない。
  • 尿道開口部の異常

雄性仮性半陰陽の猫はオスなのにメスに近い生殖器を持つことが特徴です。
逆に雌性仮性半陰陽の猫はメスなのにオスに近い生殖器を持つことが特徴です。
猫の生殖器の違いは目視では分かりにくいことも多いため、一度獣医師の診察を受けましょう。

仮性半陰陽の診断

仮性半陰陽は血液検査によるホルモンの測定や染色体検査から診断することが可能です。
また、超音波検査で体内に存在する性腺を確認することもあります。
開腹手術でメスなのに精管や精巣に似た組織が認められたり、オスなのに卵巣や子宮に似た組織が認められることも診断の一助になります。
さらに摘出した組織の病理検査を行うと確定診断が可能です。

仮性半陰陽は治療が必要?

仮性半陰陽は基本的には放置せず、避妊手術や去勢手術が推奨されます。
仮性半陰陽では精巣や卵巣が存在していても機能していないことも多く、繁殖には適しないことが多いです。
また、仮性半陰陽を放置すると性腺が腫瘍化してしまうリスクがあります。
さらに性ホルモンのバランス異常により、体調不良が生じる可能性もあり、適切な対処が必要です。

猫の仮性半陰陽の症例

ここからは実際に当院で診断、治療を行った仮性半陰陽の症例をご紹介します。
症例は血統書に雌と記載されており、実際雌の外陰部をもった猫ちゃんです。
避妊手術を目的に来院されました。
以下は実際の症例の写真です。

写真のように、この症例の陰核は肥大しており、皮下に精巣のような構造物が存在していました。

これらの所見から、この症例は雄性仮性半陰陽が疑われたため、皮下の構造物の摘出手術を行いました。

摘出された構造物からは精巣と精巣上体が認められましたが、精子の形成は認められていません。
また、腹部超音波検査及び開腹手術において卵巣・子宮組織は存在しませんでした。
この症例では精巣が存在していたものの、外部生殖器がメスに近い状態であり、卵巣子宮などの雌性組織が無かったため、雄性仮性半陰陽と診断しました。

まとめ

猫の仮性半陰陽はまれな疾患ですが、適切な診断が大切です。
仮性半陰陽は治療が必要な場合もあるため、性成熟の時期までに一度動物病院を受診しましょう。

今回の記事に関してお心当たりのある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

日本大学 生物資源科学部獣医学科卒業。どんな些細なことでも話しやすい獣医師でありたいと思っております。少しの変化や気になることなど、なんでもご相談ください。