犬の動脈管開存症(PDA)について

「若いときは病気にならない」
「心臓病は老犬にしか起こらない」
「健康診断は若いうちは必要ない」
このように考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

実はペットショップから迎えてすぐの幼い子犬でも、健康診断で心臓病が見つかる事があります。
今回は犬の動脈管開存症(PDA)について、実際の症例を交えながら解説していきます。
ぜひ最後までお読みいただき、子犬を迎える際の参考や、愛犬の健康診断のきっかけにしてください。

PDA(Patent Ductus Arteriosus)とは

PDAとは動脈管開存症のことで、子犬が胎内にいるときに使っていた「動脈管」という血管が、産まれた後も閉じずに残ってしまう生まれつきの病気です。
この「動脈管」は大動脈と肺動脈をつなぐ管であり、通常は大動脈から肺動脈へ血液が流れる左ー右短絡が一般的ですが、進行すると肺動脈から大動脈へと血液の流れが逆転し、右ー左短絡となってしまいます。
出生後に犬は肺で酸素を取り込むようになるため、この動脈管は自然に閉じます。
閉じなかった場合、血液が異常な流れ方をして心臓や肺の大きな負担になることも。
PDAは犬の先天性心疾患の中でも比較的多くみられる疾患で、特に日本では小型犬に多い傾向があります。

下記のような犬種が好発犬種として知られています。

  • トイ・プードル
  • ポメラニアン
  • マルチーズ
  • ヨークシャーテリア など

PDAは生後数ヶ月の若い時期に、獣医師の診察により見つかることが多く、早期に発見し、必要によって適切な治療を行うことで、寿命を全うできるようになります。
ある報告によると、動脈管による血液の流れの異常が多い場合は、1歳までに70%が心不全を発症すると言われています。
そのため早めの診断が大切です。

PDAの症状

PDAでは、心臓に負担がかかることで、さまざまな症状が現れます。
初期の段階では元気や食欲がある子も多く、見た目では分かりません。
しかし進行すると、以下のような症状が見られます。

  • すぐ疲れる
  • 咳をする
  • 心臓に雑音が聞こえる
  • ふらつきがある
  • 呼吸困難になる

PDAは軽度のうちは無症状のこともありますが、放置すると心臓が拡大し、心不全を引き起こすこともあります。
特に若い犬で「元気だけど心雑音がある」と言われた場合は、PDAの可能性を疑い精密検査を受けた方が良いでしょう。

PDAの検査

PDAを診断するためには、心臓の構造や血流の異常を確認する必要があります。
以下のような検査を組み合わせて行います。

  • 聴診
  • 胸部レントゲン検査
  • 心エコー検査

以下に詳しく説明していきます。

聴診

聴診は最も基本的な検査で、聴診器で心臓の音を聴きます。
PDAは「連続性雑音」と呼ばれる独特の雑音が聴こえることも。
聴診だけでもある程度の見当がつくこともありますが、確定診断には他の検査が必要です。

胸部レントゲン検査

胸部レントゲン検査は心臓の形や肺の状態を確認する検査で、PDAでは心臓が拡大していたり、肺の血管が太く写っていたりすることもあります。
胸部レントゲン検査は短時間で検査ができ、全身の状態を把握するのに役立ちます。

心エコー検査

心エコー検査はPDAの確定診断に最も重要な検査です。
心臓の動きや血液の流れをリアルタイムで確認し、動脈管が閉じずに残っている様子や、血流の方向を調べることができます。

PDAの治療

PDAを治す方法は開きっぱなしの動脈管を手術によって閉じることです。
手術では動脈管を糸でしばって閉じる「結紮術(けっさつじゅつ)」が一般的ですが、閉鎖用デバイスを設置する「コイル塞栓術」などの、より低侵襲な方法も普及されてきています。
治療のタイミングは早いほど予後が良く、手術成功率は比較的高いため、術後は元気に走り回れるようになる犬も。
重度なケースや特殊なケースでは、専門施設への紹介が必要な場合もあり、右ー左短絡になってしまった場合は、治療による根治が難しい場合もあります。
いずれの方法でも、獣医師とよく相談し、最適な治療法を選ぶことが大切です。

実際の症例

実際に当院に来院されたPDAの症例を紹介します。
生後3か月、体重640gの小さなポメラニアンの子犬が「お迎えしたばかりなので健康診断を受けたい」と来院されました。
心臓の音を聴くと雑音が聞こえたため、念のため心エコー検査を行いました。
すると心臓の中で通常とは異なる血液の流れが確認され、動脈管開存症(PDA)と診断しました。

見た目は元気があっても、このままでは将来的に心臓への負担が大きくなってしまいます。 また、幸いなことに左ー右短絡であったことから外科適応と判断し、ご家族とよく相談し、専門施設を紹介して開胸によるPDA閉鎖手術を受けることになりました。
手術は無事に成功し、術後の経過は良好。
現在は心臓の負担も軽くなり、ポメラニアンは元気に走り回ることができています。
早期に発見・治療できたことで、これからも健やかに成長していけるでしょう。

まとめ

いかがでしたか?
今回は、子犬のPDAについて実際の症例を交えて解説しました。
PDAは早期発見・早期治療で良好な予後が期待できる先天性心疾患です。
元気そうに見えても、心雑音がある場合は注意しましょう。
日常の健康診断が大切な命を守るきっかけになります。
当院では特に循環器疾患に力を入れて診察をしています。
PDAを含む心疾患について疑問やお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

日本大学 生物資源科学部獣医学科卒業。どんな些細なことでも話しやすい獣医師でありたいと思っております。少しの変化や気になることなど、なんでもご相談ください。