犬の両側腹腔内陰睾について

「子犬の陰嚢内に精巣が触れません」
子犬の検診でこのような相談を受けることは珍しくありません。
犬の精巣は生まれた直後は腹腔内にありますが、通常は生後6ヶ月くらいまでに腹腔内から陰嚢に下降します。
しかし、精巣が正常に下降していないこともあり、この状態を陰睾と言います。
今回の記事では犬の腹腔内陰睾について解説します。
特に子犬を飼われている方は最後までお読みいただければ幸いです。

犬の腹腔内陰睾とは?

陰睾とは生後6ヶ月を過ぎても精巣が陰嚢に移動せずに下降する経路に残ってしまう状態を指し、特に腹腔内に精巣が残っていることを腹腔内陰睾と言います。
陰睾の別名は「潜在精巣」や「停留精巣」です。
陰睾はホルモン分泌の異常が原因と考えられています。
さらに遺伝的な素因が関連していると考えられているため、陰睾の犬を繁殖させることは望ましくありません。

犬の腹腔内陰睾は放置しても大丈夫?

腹腔内に残った精巣は基本的には生殖能力を持ちません。
さらに、腹腔内陰睾は中高齢期になって腫瘍化するリスクが高いと言われています。
精巣が腫瘍化すると性ホルモンの分泌異常を起こすことがあり

  • 脱毛
  • 皮膚の色素沈着
  • 乳房の腫脹

などの症状が見られることが多いです。
さらに一部の精巣腫瘍は骨髄に影響を及ぼし、貧血などを起こします。
骨髄への障害が重度の場合は命に関わることもあります。
精巣が腫瘍化するのはほとんどの場合は中齢以降であるため、腹腔内陰睾は放置せずに若いうちに精巣を摘出することが望ましいです。

腹腔内陰睾の診断

陰睾はどこに精巣があるのか確かめることが大切です。
鼠径部の皮下陰睾であれば触診で精巣を確認することができます。
皮下にも陰嚢の位置にも触診で精巣を確認できない場合は追加でエコー検査を行い、腹腔内に精巣を見つけることで腹腔内陰睾の診断が可能です。
最近の超音波検査機器は画像が鮮明なため、診断精度は一昔前に比べれば格段に向上しました。

腹腔内陰睾の治療法

腹腔内の精巣は開腹手術か腹腔鏡手術により摘出する必要があります。(当院では開腹手術になります)
腹腔内陰睾は精巣が腫瘍化する前に摘出することが大切です。
腹腔内陰睾が腫瘍化していた場合は抗がん剤などの補助療法が必要になることもあります。

犬の腹腔内陰睾の実際の症例

ここからは当院で治療を行なった犬の腹腔内陰睾の症例について解説していきます。
症例は9ヶ月齢のゴールデンレトリバーです。
触診上両側の精巣を触知できず、腹腔内陰睾が疑われました。
そこでエコー検査を実施したところ、腹腔内に精巣が認められ、腹腔内陰睾と診断しました。
以下の写真がエコー画像です。

この症例では開腹手術で精巣を摘出しました。
以下の写真が術後の様子です。

まとめ

犬の陰睾についてお分かりいただけましたでしょうか?
陰睾は検診時などに触診で判断することができます。
もし陰睾と診断されたとしても早期に精巣を摘出することで良好な経過をとることがほとんどです。
今回の記事を読んで
「もしかしてうちの犬は陰睾では?」
と思われた方はぜひお気軽に当院までご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

日本大学 生物資源科学部獣医学科卒業。どんな些細なことでも話しやすい獣医師でありたいと思っております。少しの変化や気になることなど、なんでもご相談ください。