猫の大腿骨頭すべり症について

「最近、猫がジャンプをしなくなった」
「歩くときに後ろ足をかばっている気がする…」
若い猫でこのような変化がみられたら、大腿骨頭すべり症という病気の可能性があります。

今回は実際に大腿骨頭すべり症による大腿骨頸の骨折をピンニングで整復した症例をもとに、猫の大腿骨頭すべり症について解説いたします。
ぜひ最後まで読んでいただき、愛猫の歩行に異常があったときに役立てていただければ幸いです。

猫の大腿骨頭すべり症とは

大腿骨とは太ももの骨で、先端の丸い部分と骨盤で股関節を形成する重要な骨です。
大腿骨の先端の丸い部分を大腿骨頭と呼びます。
成長期の猫では、大腿骨頭と大腿骨本体の間に成長版という軟骨の層が残っています。
成長板とは成長期に骨が長くなるのを助ける軟骨の部分ですね。
猫の大腿骨頭すべり症はこの成長板が弱くなることで、外傷がなくても大腿骨頭がずれたり折れたりする病気です。

大腿骨頭すべり症は以下の猫で多くみられます。

  • 2歳未満の若齢猫
  • 去勢済みの雄猫
  • 肥満傾向の猫

つまり「少しぽっちゃりの若いオス猫」でとくに大腿骨頭すべり症を起こしやすいということですね。
大腿骨頭すべり症はメインクーンやノルウェージャンフォレストキャットなどの大型純血種にも多く見られる傾向があります。

猫の大腿骨頭すべり症のサイン

猫の大腿骨頭がずれたり骨折したりすると痛みが生じ、以下の症状が現れます。

  • 後ろ足を引きずる
  • ジャンプをためらう
  • 股関節周りを触ると怒る

症状が進行すると関節炎を引き起こし慢性的な痛みや筋肉の萎縮に繋がるので、上記の症状がみられたら早めに動物病院を受診しましょう。
猫の大腿骨頭すべり症の診断にはレントゲン検査やCT検査で大腿骨頭の不整と症状から診断されます。
猫の大腿骨頭すべり症の症状は腫瘍や動脈血栓塞栓など他の疾患でもみられる症状です。
腫瘍や動脈血栓塞栓症などの病気と区別するためにエコー検査などが追加で行われる場合があります。

猫の大腿骨頭すべり症の治療

猫の大腿骨頭すべり症の治療には保存療法と外科手術に分けられます。
猫の症状が軽度の場合は保存療法が行われることもありますが、根本治療ではないので多くの場合で進行を止めるのは難しいです。
そのため、猫の大腿骨頭すべり症の治療には外科手術が必要になることが多いです。
手術方法はいくつか選択肢があり、大腿骨頭の状態により手術方法が選択されます。
猫の大腿骨頭すべり症の手術方法についてそれぞれ解説します。

ピンニング

ピンニングはずれてしまった大腿骨頭を元の位置に整復し、金属のピンで固定する方法です。
ピンニングでは正常に近い関節構造を維持することが可能なため、運動機能の低下を最小限に抑えることができます。
大腿骨頭の変形や損傷が進行している場合は、ピンニングによる整復は適応外になります。

大腿骨頭切除(FHNE)

大腿骨頭切除は痛みの原因となっている骨頭を切除する救済的な手術です。
骨頭があったスペースは結合組織に埋め尽くされ、周囲の筋肉と共に偽関節を形成します。
大腿骨頭切除では足の運動機能が70ー80%に落ちてしまうといわれていますが、猫の日常生活に影響を及ぼすことは少ないです。

人工股関節全置換術(THR)

大腿骨頭すべり症によって機能していない股関節を人工のインプラントに置き換える手術です。
この手術は高度な技術が必要な手術のため、実施できる動物病院が限られています。

実際の症例

今回紹介する症例は2歳のノルウェージャンフォレストキャットです。

急に右後肢を引きずるようになったとのことで来院されました。
来院時には右後肢を全く動かすことができず、外傷を伴わない急性疼痛から動脈血栓塞栓症が疑われましたが、エコー検査をはじめとした各種検査により動脈血栓塞栓症は否定されました。
当院でレントゲン検査を行ったところ、左右の大腿骨頸の不整が確認されました。
こちらがレントゲン画像です。

次に大腿骨頭の状態をより詳細に確認するために、画像診断センターに行ってもらい、CT検査が行われました。
こちらがCT画像です。

CT検査より左右の大腿骨頭すべり症とそれに伴う右大腿骨頸部の骨折と診断されました。
左大腿骨頭も成長板が脆弱化しており、いつ骨折してもおかしくない状態であることが判明しました。
飼い主様と相談し、ピンニングによる骨折している右大腿骨の整復と併せて、いつ折れてもおかしくない左大腿骨のピンニングも行うことになりました。
こちらが手術後のレントゲン画像です。

翌日から猫は右後肢を軽く着地できるようになりました。
1ヶ月後には猫の歩様もほぼ正常化し、以前と同じ日常生活を送れるようになりました。

まとめ

猫の大腿骨頭すべり症は「最近なんとなく歩き方がぎこちない」「ジャンプをしなくなった」といった小さなサインから始まることが多い病気です。
猫の大腿骨頭すべり症は早期診断が治療の選択と運動機能の温存に大きく関わります。

今回の症例のように、猫の大腿骨頭すべり症は猫に明らかな外傷がなく突然破行が起こることがあります。
猫の大腿骨頭すべり症は手術方法の選択が運動機能の温存に重要です。
その判断や手術には専門的な知識や高度な技術が必要になります。
当院では猫の大腿骨頭すべり症を含めた整形外科疾患にも力を入れており、専門の先生を招いて治療にあたっております。
猫の歩き方に異変を感じたら、気軽に当院へ起こしください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

日本大学 生物資源科学部獣医学科卒業。どんな些細なことでも話しやすい獣医師でありたいと思っております。少しの変化や気になることなど、なんでもご相談ください。