犬の甲状腺機能低下症について

「犬の皮膚の治療に通っているのに、なかなか良くならない。」
「薬やシャンプーを変えてみても、毛並みが元に戻らない。」
こうした皮膚の治りにくさの背景には、甲状腺ホルモンの低下が隠れていることがあります。
甲状腺機能低下症は、さまざまな症状を示しますが、皮膚や被毛の変化として現れることも多い病気です。
時に、アレルギーと区別がつきにくいため見逃されやすいという特徴があります。

この記事では、甲状腺機能低下症の特徴や治療について、実際の症例を交えて解説します。
愛犬に皮膚のトラブルが続いている場合は、この記事を参考にしていただければと思います。

甲状腺機能低下症とは

犬の甲状腺機能低下症は、甲状腺から分泌されるホルモンが不足する病気です。
甲状腺ホルモンは、以下のような日常生活に欠かせない多くの機能に関わっています。

  • 体温の維持
  • 皮膚や被毛の健康
  • 心臓や筋肉の働き
  • 脂質の代謝
  • 神経の機能

甲状腺ホルモンが不足すると、これらの働きが十分に保たれなくなります。
その結果、元気がなくなり活動量の変化、皮膚や被毛の変化などが少しずつ現れてきます。

甲状腺機能低下症が起こる原因

犬の甲状腺機能低下症のほとんどは、甲状腺そのものが十分に働かなくなることが原因です。
主な要因として、以下の2つが挙げられます。

  • 免疫による攻撃で甲状腺が徐々に傷むケース
  • 甲状腺が萎縮して機能が落ちていくケース

どちらも時間をかけて進行するため、ホルモンの産生の低下とそれに伴う症状も徐々に表れます。

甲状腺機能低下症でみられる症状

甲状腺機能低下症では、体のさまざまな領域に影響が現れます。
甲状腺ホルモンの不足によって全身の代謝が低下するためです。
進行はゆるやかで、初期は目立たないこともあります。
ここから、症状を分けて順番に解説します。

行動や代謝の変化

代謝が落ちることで、次のような変化がみられます。

  • 元気がなく、動きが遅いようにみえる
  • 散歩にあまり行きたがらず、すぐ疲れる
  • 体重が増える(食欲は正常のこともある)
  • 寒がりになる

これらの変化は、年齢や性格の影響と考えられてしまうことが多い症状です。

皮膚・被毛のトラブル

甲状腺ホルモンは皮膚や被毛の再生にも関わるため、以下ようなの変化が起こります。

  • 左右対称の脱毛(体幹に多い)
  • 被毛のパサつき、ツヤの低下
  • 毛の再生が遅くなる
  • フケや皮膚の黒ずみ
  • 細菌やマラセチア感染を繰り返す

皮膚症状のみで治療が続けられ、診断までに時間がかかるケースもあります。

その他の症状

代謝の低下は、次のように皮膚や行動以外の部分にも影響を及ぼします。

  • 心拍数の低下(徐脈)
  • 高脂血症(コレステロール上昇)
  • むくみ
  • まれに神経症状(顔面神経の麻痺など)

検査と診断

甲状腺機能低下症が疑われる場合は、血液検査により甲状腺ホルモン量の測定が必要です。
ただし、甲状腺ホルモンの数値はほかの病気やストレスの影響を受けやすい傾向があります。
そのため一般血液検査を行い、特徴的な所見やほかの病気の有無を確認しなければなりません。
甲状腺機能低下症は、症状・ホルモンの検査・画像の検査・全身の状態 を合わせて総合的に診断されます。

治療

犬の甲状腺機能低下症は、不足している甲状腺ホルモンを補う内服薬によって治療します。
この治療は、毎日決まった量を継続して服用することが欠かせません。
内服を続けることで、低下していた代謝は少しずつ回復していきます。

治療を開始すると、行動や元気さの変化は数週間で現れることが一般的です。
一方で、皮膚や被毛の改善には数か月かかることも少なくありません。

薬の量が適切かどうかを確認するため、治療開始後は定期的な血液検査が推奨されます。
甲状腺機能低下症は慢性的な病気であるため、治療は継続することが重要です。

実際の症例

甲状腺ホルモンを補う治療は、多くの犬で良い反応が得られます。
ここでは、保護犬の柴犬で実際に確認された変化を紹介します。
この柴犬は保護された経緯から、正確な年齢や生活歴はわかっていませんでした。

画像は来院時の様子です。
全体的に毛並みがそろわず、なんとなく疲れた印象がありますよね。
目の周りや耳には黒ずみと、被毛の薄い部分があるのがわかります。
これを見ると皮膚の病気のせいなのかなと思うかもしれません。

詳しい検査後、ホルモンを補充する内服を続けた結果がこちらです。
目立っていた症状が改善され、被毛にはツヤとボリュームが戻りました。
表情も明るく活発になり、全体的に若々しい印象へと変わっています。

まとめ

犬の甲状腺機能低下症の一部の症状は、一見アレルギ-や皮膚の疾患のように見えます。
適切な検査で診断がつけば、治療によって状態が目に見えて改善することが期待できます。
皮膚症状が治りにくい場合は、ホルモンの病気の可能性も含めて確認することが大切です。

当院では、ホルモンの病気を扱う内分泌科を含む複数の診療分野に対応しています。
日常で気になる様子や変化がありましたら、お気軽にご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

日本大学 生物資源科学部獣医学科卒業。どんな些細なことでも話しやすい獣医師でありたいと思っております。少しの変化や気になることなど、なんでもご相談ください。