犬の潜在精巣について

ワンちゃんの精巣(睾丸)は生まれた直後は腹腔内にあります。
それが通常は生まれてから1ヶ月ほどで段々と移動し、最終的には陰嚢という袋の中に収まるようになります。
この一連の流れを「精巣下降」と言います。
潜在精巣とは、性成熟が完了する月齢になってもこの精巣下降が通常通り行われず、腹腔内や陰嚢の脇の皮膚の下に止まってしまうことです。
ワンちゃんは高齢になると、2%程度の精巣腫瘍の発生率がありますが、潜在精巣の場合は精巣腫瘍の発生率が約10%以上になると言われています。
精巣腫瘍の中には重度な貧血や転移といった命に関わるものもあります。
そのため、潜在精巣が認められた場合は精巣下降が完了している場合よりも、去勢手術の必要性が高くなります。

今回ご紹介する症例は、皮下に潜在精巣が認められた症例です。

犬の潜在精巣に対して外科手術(精巣摘出術)を行った症例

症例は6ヶ月のワンちゃんで去勢手術をご希望されて来院されました。
当院で身体検査をしたところ、陰嚢ないには1つしか精巣は認められず、陰嚢の脇の皮膚の下に精巣が認められました。

一般的になワンちゃんの去勢手術は陰嚢のやや前を切開して精巣を摘出します。(写真赤矢印
しかし、皮下の潜在精巣の場合はその切開場所から精巣を摘出するのは困難です。
そのため皮下の潜在精巣の場合は、精巣のある場所の真上を切開し、精巣を摘出します。(写真青矢印

このワンちゃんの手術はスムーズに進行し、無事元気に退院してくれました。

潜在精巣は若い時には問題になることが少ないため、去勢手術をしない場合は軽視されがちです。
ただ、私たちは潜在精巣を手術せずに放置したばかりに精巣が腫瘍になってしまい、取り返しのつかない状態になってしまったワンちゃんたちをたくさん見てきました。
精巣下降をしていたとしても当院では去勢手術の実施をお勧めしていますが、潜在精巣の場合はそれ以上に去勢手術をすることを強くお勧めしています。
「よく触ってみたら陰嚢の中に精巣が一つしかなかった」
と気づかれた場合は、なるべくすぐに動物病院にかかるようにしましょう。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。