猫の腸腺癌について

近年ペットフードの改良や獣医療の発展に伴い、猫の長寿化が進んでいます。
15歳を超えて元気に過ごしている猫ちゃんも少なくありません。
中には20歳を超えているご長寿猫ちゃんもいらっしゃいますね。
猫も人間と同じように、高齢になると腫瘍が発生する確率が上がります。
「猫の腫瘍にはどんなものがあるの?」
「うちの猫は大丈夫かしら。」
そんな心配を抱えていらっしゃる飼い主様も多いのではないでしょうか。
腫瘍には悪性から良性まで様々な種類のものがあります。
今回はその中でも悪性度と転移率が高いとされている「腸腺癌」という種類の腫瘍について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、猫の腫瘍に対する理解を深めていただければ幸いです。

猫の腸腺癌とは

猫の腸腺癌は小腸や大腸にできる悪性腫瘍です。
猫の腸にできる腫瘍の中ではリンパ腫の次に多いといわれています。
腸腺癌は高齢の猫での発生が多いです。
猫の中では特にシャム猫での発症が多いともいわれています。
腸腺癌は転移率が高い腫瘍です。
具体的には

  • リンパ節
  • 肝臓

などへの転移がよくみられます。

猫の腸腺癌の症状

猫の腸腺癌の主な症状は

  • 嘔吐
  • 下痢
  • 血便
  • しぶり
  • 体重減少
  • 貧血

などです。
腫瘤が腸管を塞いでしまい、腸管の通過障害がおこると嘔吐がみられます。
小腸にできた腸腺癌の場合はメレナと呼ばれる黒い下痢便や体重減少がみられます。
大腸にできた腸腺癌の場合は血便やしぶりがみられるでしょう。
メレナや血便は消化管の出血が原因で起こるため、貧血もみられることがあります。
高齢の猫がよく吐いていたり下痢をすることが続いたら、動物病院で診察を受けることをおすすめします。

猫の腸腺癌の診断

猫の腸腺癌の診断には

  • 触診
  • 直腸検査
  • 超音波検査
  • X線検査
  • 病理組織学的検査

などが有用です。
腹部の触診では、腫瘤がある程度大きいものであればお腹の外側から触って確認することができます。
しぶりや血便が見られるときに直腸検査を行うと腫瘤を直接触れることがあります。
超音波検査はどのくらいの大きさの腫瘤がどのあたりにあるかを確認できる検査です。
リンパ節などに転移があるかどうかもわかるかもしれません。
X線検査でもお腹の中の腫瘤が見えることがあります。
X線検査では肺などに転移があればその検出も可能です。
これに加えて造影X線検査を行うと、腫瘤によって腸管が閉塞を起こしているかどうかが分かる事もあります。
手術によって摘出した腫瘤は病理組織学的検査に出すことがほとんどです。
この検査によって

  • 腫瘍の種類
  • 腫瘍が悪性か良性か
  • 腫瘍の転移の有無

などを診断できます。
この診断結果を元に、手術の後に抗がん剤治療をした方がいいかどうかの判断もできます。

猫の腸腺癌の治療

猫の腸腺癌の治療では外科的切除が第一選択です。
腸腺癌は転移率が高いため根治治療は難しいです。
しかしなるべく早期に手術を行うことで延命が望めます。
外科的切除では腸にできた腫瘍を切除して腸を繋ぎ合わせます。
腫瘍の転移がある場合には、術後に抗がん剤を使った化学療法を行うこともあります。

実際の症例

ここからは実際に当院で腸腺癌の切除手術を行なった症例をご紹介します。
症例は8歳6ヶ月の猫です。
最近嘔吐することが増えたということで来院され、超音波検査を行うと消化管に腫瘤があることがわかりました。
飼い主様と相談の上、消化管腫瘤の切除手術を行いました。
下の写真の通り、小腸に約2cm程の腫瘤があることが分かります。

この腫瘤を切除して、写真の通り腸管を繋ぎ合わせて手術は終了です。

摘出した腫瘤を病理組織学的検査に出すと、悪性度の高い腸腺癌であることがわかりました。
腫瘤の摘出自体はうまくいっており取り残しはありませんでしたが、同時に行ったリンパ節生検にて腸管膜リンパ節への転移が認められました。
現在この猫ちゃんは抗がん剤での治療を続けています。
今のところ嘔吐もなく食欲元気もあり、経過は良好で体重も増えてきています。
転移が認められたことから今後も注意深い経過観察が必要です。

まとめ

今回は猫の腸腺癌について解説しました。
猫に腫瘍ができてしまうことを予防することは難しいです。
しかし早期の発見と早期の治療で延命できる可能性はあります。
猫がシニアになってきたら定期的な健康診断を受け、なるべく早く異変に気付けるようにしておくことをおすすめします。
特に高齢の猫の便の異常や嘔吐には注意が必要です。
当院では猫の健康診断を実施しています。
猫ちゃんの健康状態で気になることがありましたら、お気軽に当院にご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

日本大学 生物資源科学部獣医学科卒業。どんな些細なことでも話しやすい獣医師でありたいと思っております。少しの変化や気になることなど、なんでもご相談ください。