猫の膵外分泌不全について

膵臓にはインスリンやグルカゴンといったホルモンを分泌する内分泌機能と、消化酵素を分泌する外分泌機能の2つの機能があります。
膵外分泌不全とはその消化酵素を分泌する外分泌機能が失われてしまう疾患です。
体内で食事の消化吸収が正しくできなくなってしまうので、正常な便が出なくなり、栄養不良になります。
猫の場合は、下痢をしたり、栄養不良に起因する毛並みの悪化や、食欲があるのに体重が減少していくという症状から疑われて診断されることがあります。
また、血液を作るために必要なビタミン12を吸収することができなくなるので貧血にもなります。
猫の膵外分泌不全は非常に珍しく、多くの場合は慢性膵炎によって膵臓がダメージを負った後に発症します。
今回ご紹介するのは膵外分泌不全の猫で良好に治療できた症例です。

猫の膵外分泌不全の症例

今回ご紹介する症例は食欲はあるのに体重減少と下痢があるとのことで来院された4歳の猫ちゃんです。

毛並みが悪く痩せていますね。

半年前に来院された時は2.55kgあったのに対して、この時は1.55kgしかありませんでした。
血液検査では貧血が認められ、その他の検査からも膵外分泌不全が疑われたため、外部の検査センターにTLI(血清中トリプシン様免疫活性物質)と葉酸、コバラミンという物質の測定を行いました。
このTLIというのは膵臓から分泌されるトリプシンという消化酵素の前駆物質であるトリプシノーゲンを反映する検査で、この数字が低いと膵臓から消化酵素が正しく出ていないと判断され、膵外分泌不全が診断されます。
コバラミンはビタミン12の一種でこの数字が低いとビタミン12が正しく吸収されていないことを意味します。
この猫ちゃんのTLI、コバラミンは案の定低く、この時点で膵外分泌不全と診断しました。

その後、体に足りない消化酵素とビタミン12を補給したところ、下痢や貧血は改善し、1ヶ月で3.35kgまで体重が増加しました。

別の猫のように毛艶も良くなり見るからに良い栄養状態です。

体重が1.55kgから3.35kgに増えたことは、人間からすると
「たかが1.8kg増えただけでは?」
と思われるかもしれません。
ただこれは体重が倍以上に増えているので、猫ちゃんにとっては、人間でいうところの30kgが60kg以上に増えたことと同じことになります。
逆に言うと、それだけ膵外分泌不全という病気が、猫ちゃんの栄養状態を極度に悪化させ、本来の体重を半減させてしまう恐ろしい病気ということですね。

膵外分泌不全は、猫ちゃんには珍しい病気で一般的な検査では診断することが困難なため、治療をすることが困難です。

  • 食欲があるのに体重が減ってきた。
  • 毛並みが悪くなってきた。
  • 長期間慢性的な下痢をしている。

以上の症状が見られた場合は一度動物病院にご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。