犬の喉頭麻痺について

犬の喉頭麻痺は、時として緊急対応を必要とする疾患です。
典型的な症状には興奮時ゼーゼー呼吸をするようになったり、努力呼吸(一所懸命に息を吸う)、呼吸困難、特徴的な喉の奥が閉まったような呼吸音があり、重篤な場合は呼吸停止し、死亡することもあります。
今回は喉頭麻痺とは何かを解説し、実際の喉頭麻痺のわんちゃんに永久気管切開術(永久気管瘻造瘻術)を行った症例をご紹介します。

犬の喉頭麻痺とは

喉頭麻痺とは冒頭で解説したように緊急対応を必要とする疾患で、空気の通り道である喉頭が麻痺してしまい開かず、肺に十分な酸素を送ることができなくなる病気です。
この喉頭麻痺の原因には様々なものがありますが、大きく分けて先天性と後天性に大別されます。
先天性の喉頭麻痺は比較的珍しく、1歳未満の若齢犬のシベリアンハスキー、ダルメシアン、ラブラドールでよく見られます。
しかし、喉頭麻痺の多くの場合は後天性に分類され、後天性の喉頭麻痺の場合は炎症、腫瘍、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、神経の損傷を伴う外傷、医原性などが原因として挙げられます。
ただし、最も発生頻度が高い喉頭麻痺は、特発性喉頭麻痺と呼ばれ、神経筋障害が原因と言われているものです。

診断には様々な検査が用いられますが、診断を確定させるためには内視鏡などで直接喉頭の動きを観察することが必要となります。
その他、喉頭麻痺を疑うために身体検査、超音波検査が、また重症度や喉頭麻痺の原因、その他の病気の除外のために身体検査、レントゲン検査、血液検査、内視鏡検査が行われます。

治療方法には内科治療や片側被裂軟骨軟骨側方化術(タイバック)、永久気管切開術(永久気管瘻造瘻術)などの外科治療があり、状況に応じてそれぞれ選択されます。
内科治療では、原疾患の治療を行います。
例えば、神経炎によって喉頭麻痺が発症している場合は消炎剤の投与によって改善することもあります。
軽度の場合は興奮や暑熱環境を避けることでも症状の改善が期待できます。
片側被裂軟骨軟骨側方化術(タイバック)が外科療法の第一選択として最も一般的に行われていますが、この術式では誤嚥の程度や頻度が上がると言われています。
ある報告によれば、タイバック手術の合併症が10.7%の症例で報告されており、別の報告では18%の症例で術後に肺炎を発症したと報告されています。
永久気管切開術(永久気管瘻造瘻術)はこの披裂軟骨側方化術の実施が困難な場合や、この手術では良好な予後が期待できない場合に実施されます。
永久気管切開術は開口した部分が時間と共に徐々に狭くなってくるため、開口部の形成手術が再度必要になることと、術後はネブライザーなどの維持療法が必要になってきます。

今回ご紹介するのはこの永久気管切開術(永久気管瘻造瘻術)を行った喉頭麻痺のわんちゃんの症例です。

喉頭麻痺に対して永久気管切開術を行った症例

今回ご紹介するのは4歳のポメラニアンで呼吸が苦しいとのことでいらっしゃいました。

来院時の呼吸は口を開けてゼーゼーと苦しそうな呼吸状態であり、チアノーゼを呈しておりました。 各種検査から喉頭麻痺が疑われ、緊急性もあったため手術を前提として、全身麻酔下での喉頭の観察を行いました。

喉頭が麻痺して開いていないことがわかります。

以上の所見から喉頭麻痺と診断し、緊急的に一次気管切開という手術を行うこととなりました。
一次気管切開とは首を切開しチューブを入れ、一時的に喉頭を使わずに呼吸ができる経路を作る手術です

黄色丸が首から気管に入っているチューブです。

一次気管切開後一旦は呼吸状態も安定し、その後飼い主様と協議をした結果、翌日に永久気管切開術を行うこととなりました。

手術後の傷の写真
術後の様子。元気にご飯も食べれています!

手術後から呼吸困難は消失し、元気に日常生活も送れるようになりました。

まとめ

喉頭麻痺は呼吸困難から命を落とすこともある病気です。
幸い今回の症例は緊急手術を実施することができましたが、手遅れになってしまうこともあります。
喉頭麻痺が疑われるような、ゼーゼー呼吸をする症状が見られたら動物病院までお早めにご相談ください。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。