犬の避妊手術について

飼い主様である皆様は、ペットの避妊・去勢手術について一度は悩まれたことがあるのではないでしょうか?
避妊手術をすると、平均余命が26.3%伸びたという報告もあり、実施検討の余地はありそうです。
今日はそんな犬の避妊手術についてメリット、デメリットを含めてお話致します。

避妊手術って何をするの?

避妊手術は簡単にいうと、卵巣あるいは卵巣、子宮両方を摘出する手術です。
当院では卵巣と子宮の両方を摘出しています。

もちろん手術ですので、全身麻酔で行います。

避妊手術の術後の傷の様子

避妊手術という名前だと妊娠を避けるために行う手術のイメージが強いかもしれませんが、それ以外にも様々な目的で行われます。

避妊手術をしないとどうなるの?

避妊手術をしない犬は小型犬で6〜8ヶ月程で初めての発情を迎えます。
一方大型犬の発情開始は小型犬より少し遅く、1歳前後と言われています。

発情の兆候は外陰部が腫れる、陰部から出血する、元気がなくなる、落ち着きがない、食欲の低下、頻尿などがあります。
飼い主様がよく気づかれる兆候は、陰部からの出血ですが、発情2回目以降の犬たちは自分で舐めとることを学び、床や毛布、ペットシートなどにも付かず、気付かれないこともあります。
発情の周期は約6ヶ月間隔(年2回程度)で周り、発情は約1〜2ヶ月続きますが、出血する期間は約1〜2週間と短期間です。

避妊手術をするメリットは?

避妊手術をする一番のメリットは病気を予防できることです。
予防できる病気は

  • 卵巣腫瘍
  • 子宮疾患(子宮蓄膿症や子宮の炎症・腫瘍など)
  • 乳腺腫瘍 ・乳腺炎

などが挙げられます。

卵巣腫瘍は卵巣を摘出する避妊手術で100%予防可能です。
子宮疾患も、犬でよく見られる子宮蓄膿症や子宮腫瘍、子宮内膜炎などは卵巣から分泌される性ホルモン依存性であるため、避妊手術で予防可能です。
乳腺腫瘍は避妊手術のタイミングで発生率が変わる病気で、初回発情の前に避妊手術をすることで、発生率を0.05%まで下げることができます。
ちなみに犬の乳腺腫瘍の良性、悪性の割合は50%ずつと言われています。
乳腺炎は発情期の後半に見られ、妊娠時や偽妊娠時に乳腺が発達した時に、乳汁が詰まったり、細菌が感染することで起こります。こちらも性ホルモンが関係しているため、避妊手術で予防することが可能です。

避妊手術を行うメリットは病気の予防だけではなく日常生活で役に立つものもあります。
避妊をしていないと…

  • 発情期に周りの犬にも影響を及ぼし、犬同士のトラブルや咬傷事故、稀に望まぬ妊娠をしてしまうことがある。
  • 発情期はにホルモンのバランスが崩れ、食欲や元気が無くなってしまう子や神経質になる子もいる。
  • 発情期の後半になると、ホルモンの過剰分泌により、偽妊娠をすることがある。

偽妊娠とは巣作りやぬいぐるみを可愛がるなど、あたかも妊娠したかのような行動を取ることで、乳腺が張り、乳汁を出すこともあります。

避妊手術を行うことで上記のトラブルを回避できます。

デメリットもあるの?

飼い主様が一番心配されるのは何と言っても麻酔だと思います。
もちろん、万全の準備をして麻酔処置を行いますが、残念ながら万が一が無いとは言えません。
今の獣医療では麻酔を実施する際、死亡する可能性がある症状(薬剤によるアナフィラキシーや不整脈など)を起こす割合は、犬で0.17~0.65%と言われています。
決して高いとは言いませんが、それでも1000頭に約5頭はそういったことが起こりえます。
ちなみに人の麻酔での発生率は0.01~0.05%と言われています。
人の麻酔と比べると高い確率ということがわかります。

また術後から、ホルモンの関係上、代謝が落ち、食欲が増えることが多く、避妊手術後は太りやすくなります。
高齢期では、女性ホルモンの減少により尿道括約筋の働きが低下し、尿漏れを起こすことが稀にあります。
ふとした瞬間に下腹部に力が入ると漏れる、寝ている間におしっこをしているなどの症状がある場合はこのホルモン性の尿失禁かもしれません。

最後に挙げるデメリットは、妊娠できなくなるということです。
一度取った子宮卵巣を戻すことが出来ないため、可愛いペットの子どもを残したい!見たい!と思ってもできません。

まとめ

今回は避妊手術をするメリット、デメリットをお伝えしてきました。

犬の寿命はここ数十年で約2倍も伸びています。
その理由は避妊手術を含めた予防医療の浸透や食餌の改善などが要因です。
避妊手術をせず、自然に…と思われる方もいらっしゃいますが、不自然が犬の寿命を伸ばし、犬と一緒に楽しく長く生活することを可能にしています。

避妊手術を迷われている方は、是非この機会にじっくりと考えてみてはいかがでしょうか?

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。