犬の心原性肺水腫(僧帽弁閉鎖不全症)について

僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)とは犬の代表的な心臓病です。
この心臓病は小型犬に好発し、10歳以上の小型犬の約30%以上が罹患すると言われています。
心臓の左心房と左心室を隔ている僧帽弁と呼ばれる装置が変性し、血液の逆流が発生してしまいます。
本来、左心房から左心室へ血液は一方通行で流れていきますが、僧帽弁における逆流の発生により左心房は腫れてしまい(心肥大)、重症化すると肺水腫に陥り、致命的になってしまいます。

肺水腫の診断は、胸部レントゲンや緊急時には肺エコーによって行い、肺水腫の原因が僧帽弁閉鎖不全症なのかどうかは心臓超音波検査によって行います。
心原性肺水腫は緊急性が高いため、利尿剤・強心薬・血管拡張薬(降圧剤)などを使い心臓の負担を取り、肺の水を引かせていきます。
今回は、お薬によって内科的に治療した症例をご紹介いたします。

犬の心原性肺水腫の症例

症例は7歳のチワワさんで、呼吸回数が早いとのことでいらっしゃいました。
聴診にて心原性肺水腫の可能性が高かったため、すぐにレントゲン検査と心臓超音波検査を実施しました。

レントゲン検査結果です。

肺が白くなっており、肺水腫や肺炎が疑われる。

肺が白いだけでは心臓病が原因か呼吸器病が原因か分かりません。
そのため、心臓の超音波検査を実施しました。

心臓超音波検査です。

心臓超音波検査にて僧帽弁閉鎖不全症が認められ、心肥大も伴っていました。波形の数値も心原性肺水腫を強く疑う数値だったため、心原性肺水腫と診断し、治療を開始しました。

心肥大が認められた(LA/Ao:1.79)。

治療後1週間です。

白かった肺も黒く綺麗になりました。

呼吸数も改善しました。

心臓病は急激に症状が発現し、時折致命的にまで重症化することがあります。
当院では心臓病については専門的に検査・治療が可能です。
もし病院で心臓の雑音を指摘されたら、手遅れになる前に一度は検査をすることをお勧めいたします。

執筆担当:院長 渦巻浩輔

この記事を書いた人

渦巻浩輔

2013年大学卒業後、埼玉県坂戸市のブン動物病院で4年間の勤務医を務め、犬や猫、エキゾチックアニマルの診療に携わる。2016年からは東京都の小滝橋動物病院グループに勤務し、CTやMRI、心臓外科、脳神経外科を始めとした高度医療施設に身を置き、2019年からは同動物病院グループの市ヶ谷動物医療センターにてセンター長を務める。高度医療に携わりながら地域の中核病院として診療を行なった。2022年11月、東京都板橋区赤塚に成増どうぶつ病院を開院する。日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会・日本獣医エキゾチック動物学会所属。特に循環器・呼吸器の診療を専門とし、心臓病についてのセミナー講師も行っている。